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古書について思うこと――ファラデー「ロウソクの科学」

竹内敬人
東京大学大学院理学系研究科化学専門課程修士課程 1962年修了
 私は古書のコレクターでもなんでもないですが、たまたま仕事に必要だったため、ファラデー関係の古書を以下の3冊、といっても19世紀半ばのものですが、入手しました。
(1) マイケル・ファラデー「ロウソクの科学」
 (原題 The Chemical History of a Candle)
 (1865)【右画像】
(2)マイケル・ファラデー「物質と力」
 (原題 The Various Forces of Matter)
 (1860)
(3)ジョン・ティンダル「発見者ファラデー」
 (原題 Faraday as a Discoverer)
 (1868)
 このうち私にとって一番貴重なのは「ロウソクの科学」で、「レッド版」と呼ばれる赤い装幀のものです。1861年に最初に本として出版されたのは青い装幀の本で、「ブルー版」と呼ばれています。発行部数も少なかったためか、こちらは入手できませんでした。
 これらの本を内外の古書店から求めたのは今から20年ほど前のことでしたが、この間に出版界の事情は大きく変わりました。OCRの発達・普及、電子出版、電子書籍の登場です。先に述べた本もさまざまなルートから、無償でpdfやテキストファイルをダウンロードできたり、そこそこの値段で、すでに製本されたもの、あるいはオンデマンド印刷形式で入手できるようになりました。例えばThe Chemical History of a Candle はProject Gutenbergから無償でファイルがダウンロードできます。他の本も同じです。
 本の出版形態は時代と共に変わっていきます。例えば、私はフランス綴じの本のページをペーパーナイフで切って読み進む楽しみを味わったことがありません。電子出版の時代に入って、入手が難しい古書、稀覯書が容易に手に入るようになったのはもちろん喜ばしいことですが、この調子で電子出版が普及していくと、100年後といわずとも、50年後には、古書というものの概念、そして古本というものの概念も今とは変わってしまうのではないでしょうか。紙が少し茶色がかった「レッド版」と、2年前に求めたOCR復刻版の「ロウソクの科学」を並べてみて、世の移り変わりの早さに今更ながら驚かされます。

(2012年11月 寄稿)
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